
大久保 一郎 (Okubo Ichiro)
筑波大学大学院 教授
人間総合科学研究科 社会医学系
ヒューマン・ケア科学専攻 保健医療政策分野
http://www.hcs.tsukuba.ac.jp/09_hoken.html
医師という夢の実現に向けて
将来の進路として医学部を目指している方も多くおられると思います。
医学には大きく3つの分野があります。患者の診療・治療を行う臨床医学、これは多くの人が医者としてイメージしているものです。また、免疫システムの解明や新薬の開発など医学医術を支える基礎的な研究を行う基礎医学、そして、環境問題、地域の健康づくり活動、医療政策といった医学の社会的適用を考える社会医学があります。現在日本には医師は約30万人いますが、その95%は臨床医学の分野で活躍しています。
法律では医師の役割は、医師法の第1条に「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上と増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。」とあります。医師の役割は広範囲であり、医師法では社会的な役割が強調されています。私自身、社会医学分野の医師であり、患者を診ることはありませんが、医師という職業の重さと素晴らしさを日々実感し、医師になって本当に良かったと思っています。
医師になるためには、医学部に入学する必要があります。国公立大学と私立大学では入試に必要な科目には差がありますが、全科目にわたっての高い学力が求められます。しかし、個人的な意見ですが、天才のような人である必要はありません。むしろこのような人は物理や数学等の自然科学の領域で、ノーベル賞を目指すべきと考えます。医師に求められるのは、多少の好き嫌いはあるにせよ、全科目を真面目に勉強する姿勢があることです。むしろ嫌いな科目により真摯に取り組むという態度が必要かと思います。これは教養を広めることにもなり、また忍耐力や人間性の形成にもつながります。
医師という職業が相手にするのは、機械や動物ではなく、生きた人間です。学問上の理論や理屈のみで解決できるものではありません。予想外のことが生じ、その対応が求められた場合に、中学高校時代に醸成したこのような姿勢や態度が役に立つことになります。さらに医師はチーム医療におけるリーダーの役割を果たさなければなりません。リーダーはチームのメンバーから人として信頼され、メンバーの意見を聴き集約し、最終的な判断を下します。そのためには、課外活動やボランティアの経験などは非常に有益です。
医師としての必要な資質は、中学高校時代の学科の勉強だけでは十分ではなく、課外活動、生徒の委員会、学校行事等に参加することから築き上げられます。中学高校時代に経験できることは全て役に立ちます。よい医師になるためには、特別なことが必要なのではなく、学校で提供される多くの活動に関心を持ち、積極的に参画することです。是非中学高校生活を大切にしてください。
最後に「あきらめることなく夢を追い続ければ、必ずその夢が実現する」という趣旨のことばが、よく成功者から聞かれます。これは正しい。しかし、好きなことばかりをしていれば、いずれ実現するという意味ではありません。全ての成功者には人には言えない程の、辛く嫌なことも含めた努力の積み重ねがあるものです。皆さんも学校ではしたくないことがいくつもあるでしょうが、それらを安易に避けるのではなく、正面から取り組み,乗り越える努力をしてみてください。そして何よりも学校生活を楽しんでください。そうすれば、きっと夢へ向かって大きく前進することでしょう。皆さんには明るい未来があります。